JOURNAL

COLUMN

「アート思考」でワクワクした未来への事業プランを創る

著者:長谷川 一英

2022.Dec.31

今回は、私の仕事について紹介したいと思います。

私は、青山学院大学大学院国際マネジメント研究科において、「アントレプレナーシップ」の講座を担当しています。この講座では、「アート思考」を用いて、未来を見据えた事業プランを創ることにチャレンジしています。

「アート思考」は革新的なコンセプトを創る思考法

私の講座での「アート思考」とは、現代アートのアーティストが作品を制作するときの思考、即ち「自らの関心・興味に基づき、革新的なコンセプトを創出する思考」のことをいいます。常識を覆すような革新的なコンセプトを創ることができれば、社会を大きく変貌させる事業プランを考えることも可能になります。

現代アーティストの思考を学ぶことから、実際に、アーティストにも登壇していただき、革新的なコンセプトをどのように創っているかを語ってもらっています。

興味をもった事象からコンセプトを考えアート作品を創る

講座では、事業プランを創る前に、アーティストと同様にコンセプトを考えてアート作品を創る課題を行いました。最初から事業を考えると、どうしても実現できるかとか、利益が出るかといった制約を気にしてしまい、コンセプトが小さくなってしまいがちです。その点、アート作品であれば、これらの制約から解き放たれ、自由に発想することができるのです。

  • 興味をもった事象と、その事象に関してリサーチしたこと
  • リサーチをもとに考えた革新的コンセプト
  • コンセプトを表現したアート作品

上記の3つのステップごとに発表してもらいます。

2021年には大学院とは別の場でビジネスパーソンとワークショップを行いましたが、2022年の講座とは、受講生の皆さんが興味をもった事象にかなりの違いが見られました。

昨年は、コロナ禍で身の回りに起きた変化に着目した人が多くいました。例えば、地下鉄の駅の近くに「カプセルトイ」のマシンが増えたとか、電動キックボード「LUUP」のステーションが増えたといった点です。

一方、今年は、大きな社会課題に着目した人が多くなりました。環境問題、エネルギー問題、少子化、食料自給率などが取り上げられました。ロシアのウクライナ侵攻を期に、エネルギー源の確保が喫緊の課題になるなどの社会の変化が影響しているように思います。

このワークを行うと、ビジネスパーソンの皆さんがものすごいクリエイティビティを持っていることがわかります。

例えば、少子高齢化に着目した人は、「現状相互依存になっているけれど、なるべく自立して相互貢献に移行すべき」というコンセプトを考えて、クリップを使って相互依存の状態と自立の状態を彫刻として表現しました。

動物園のキリンの観察から着想して「状況によって自由の感じ方が変わる」というコンセプトを考えた人は、キリンの身長と同じ4 mの長さの紙に、青い色をのせ、その上に違う色を足していってグラデーションを描きました。最後は黒くなり、もはや他の色を足しても変わらない、自由度がなくなることを表現しました。

受講生のひとりは、日常の思考とは違う頭を使うことになり、同僚や家族も巻き込んで楽しみながら制作することができたと語っています。

同じコンセプトで事業プランを創る

作品制作が終わったら、いよいよ事業プランを創る作業に入ります。

事業プランを創出するにあたり、以下の条件を提示しました。

  • アート作品を制作するときに考えたコンセプトを事業プランのコンセプトに転用する。自分の興味ある事象から考えた革新的なコンセプトですから、これから事業を創ることで、これまでにない事業になる可能性が出てきます。
  • すぐに実現しなくてもいいので、なるべく荒唐無稽なことを考えてみる。
  • 実現した際には、ワクワクする社会になるようなプランを考える。

荒唐無稽という条件をつけたこともあり、未来を見据えた壮大なプランや、ユニークな発想のプランが次々と出てきました。

再生エネルギー関連の仕事をしている人は、現在、各地で独自に行っているエネルギーの生産施策は、自然環境に介入して設備を作っていたりするので、将来、マイナスの影響を与えることもあるのではと問いを立てました。アート作品としては、表と裏で見え方の違う絵画を制作しました。

事業プランは、長距離送電網で世界を繋ぎ、大量に電力を生産できる場所から、全世界に供給するというものです。複数の送電網を作ることで、災害や紛争が起こっても、別のルートで送電を続けることができるようになります。

送電網の構築には、技術的な課題もあるし、地政学的な課題もあり、そう簡単には実現できないものです。しかし、エネルギーの概念を大きく変える可能性があります。

また、「距離によって価値が変わる」というコンセプトを考えた人がいます。アート作品は、透明なゼリー状の中にスマートフォンを埋めたもの。電話をかけるとスマートフォンが光るのですが、電話に出ることができません。距離によってスマートフォンの機能を活用できなくなることを表現しました。その後提案された事業プランは、IoTを発展させて、家具にAIを組み込み擬人化するというものです。テーブルが家族の様子をみていて、必要なときに声をかけるという企画。家族の健康増進などに貢献できるテーブルとなり、身近にある家具の価値がより高くなります。

荒唐無稽な事業プランがイノベーションを生む

紹介したように、アート作品を制作するために考え出した革新的なコンセプトから、未来の社会を大きく変えうる事業プランを創り出すことができました。

もちろん、これらの事業プランを実現させるには、技術的な課題や社会的な課題など解決しなければならないことは、ものすごくあります。しかし、このようなプランを提示することで何をすべきかが明確になります。未来を見通したプランを提示せず積み上げだけでやっていては、いつまでたっても飛躍した地点に到達することはないでしょう。

歴史的にも、「アポロ計画」のような荒唐無稽な事業プランを実現させている事例は多く、その過程でいくつものイノベーションが生まれています。

イーロン・マスクは、火星移住というコンセプトを提示しています。そして、「2030年よりもずっと前にスターシップを火星に着陸させる」と宣言しています。このように荒唐無稽ともいえる高い目標を掲げているので、誰よりも早くロケットを開発することができるのです。

荒唐無稽な事業プランに対し、「そんなの無理だ」と一蹴するのではなく、そのプランが実現したらどんな社会になるかを想像してみる。そして、ワクワクしてきたら、実現させるためにどうしたらいいかを思考することが必要です。

「アート思考」がもたらす心理的変化

この手法で事業プランを創出する手法は、受講生にも変化をもたらしています。

受講生のひとりは、アート作品を創るときのコンセプトを事業に展開するという手法を知ったことで、事業のアイデアを考えやすくなったと語っています。また、アート作品を制作しているときと同様に、事業プランを考えるときも楽しみながらできたと言っています。

また、受講生の発表に対する他のメンバーからのコメントも「面白い!」「是非実現させてほしい!」といったポジティブなものばかりなのです。発表者がなにより楽しんでいるし、ワクワクする未来をそれぞれのメンバーが思い描いていることが伝わってきます。

まだまだ始めたばかりで、ブラッシュアップする余地はあると思いますが、多くのビジネスパーソンに、アート作品制作に基づく事業プラン創出を体験して欲しいと思います。

私たちは、今までになかったものを夢見ることができる人々を必要としている。

We need men who can dream of things that never were.

(ジョン・F・ケネディ)

COLUMN

TEXT & EDIT: Kazuhide Hasegawa

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